先日のブログで、守備の基本動作が昔と今では違うことに触れました。
詳しく説明してみたいと思います。

日本の野球は練習をしたおす根性野球時代から強靭な体を作り上げる筋力トレーニング時代、そして筋トレや打撃や守備の考え方を大きく変えた野球理論時代へと変化を遂げてきた。

打撃理論についてはまたの機会に詳しく述べたい。
ただ、最近までは守備よりも打撃の進歩がやや進んでいたのは事実である。

しかし、最近では守備理論が打撃理論に並ぶか追い抜くかというところに来ている。

日本の野球の守備理論を劇的に変えたのは元ヤクルトスワローズの宮本慎也選手だと言われている。
1995年にヤクルトスワローズに入団した宮本選手は、2004年アテネ五輪、2008年北京五輪で日本代表を務める日本野球の守備の要であった。

彼はPL学園時代からずば抜けて守備が良かった。
プロ入りしてもすぐに即戦力のセカンドとして力を発揮し、翌年からショートのレギュラーに定着する。
彼はもちろん捕球は上手かったが、それよりも内野安打を防ぐ技術が突出していたのだ。

彼の考え方はそれまでの二遊間の守備理論とは全く違っていた。
それまでの守備の基本は捕球することを最優先にしていたのに対し、宮本選手の守備の基本はアウトにすることを最優先としていたのだ。

具体的に例を挙げてみるとこうだ。

ショートを守っているとする。
打球は三遊間に飛ぶ。
それまでの守備の基本はできるだけ体の正面で捕球することである。
打球に間に合うので体の正面で捕球してそれから態勢を作り直すために2~3歩ステップして送球したとしよう。
これが間一髪でセーフになったとする。
記録は内野安打である。
しかし、このショートは誰からも責められない。
捕球もでき送球もしたうえで間に合わなかったのだから仕方ない、ということになるのだ。

宮本は違った。
三遊間の打球に捕球は間に合うが、最後の一歩を踏み込まず左足を踏み込んだ状態で逆シングルで捕球する。
捕球した瞬間に右足を一歩三遊間寄りに踏み出せば送球する態勢ができるのでそのままノーステップで送球する。
これが間一髪どころか余裕でアウトになるのだ。

宮本はそれまで「体の正面で捕球したがために捕球した時点で0だった送球態勢」を「正面で捕球しないことで捕球した時点で2か3の送球態勢」が生まれ、アウトにできる確率が増えると考えたのだ。

文章にしてみると「そりゃそうだろう」と思うが、実際にこのプレーをするには相当な覚悟がいったと思う。
正面で捕ることを美学としていた時代がかくも長く続いていたのだ。
正面が無理ならダイビングして捕るという時代なのだ。
ショートが5mぐらい三遊間に走ったあとでダイビングして捕球してもアウトにはできないのだが、なぜかノックでは5m走ったあとにダイビングをすれば根性があるように見える。しかも褒められるのだ。
逆に宮本のように正面に入らず逆シングルでキャッチしようものなら「横着な捕り方するな!」とこっぴどく叱られたのだ。

日本の野球は長きにわたり「基本姿勢で捕球できること」を守備の美学としてきた。
しかし、宮本の守備で日本の野球は「アウトにすること」こそが美学だという考えに変わったのである。

昔々、吉田義男氏が阪神タイガースのショートで牛若丸と呼ばれていた時代があった。
吉田氏の守備理論は今から思えば宮本に似ていた。
「いかに捕球してすぐに送球できるか」を吉田氏は追及していた。
しかし、その時代は正面で捕ってすぐに送球することにとどまっていたのだ。それでも牛若丸のように華麗に舞うような守備に見えたのだろう。
その後、約20年を経て「正面で捕る」「両手で捕る」という2つの概念を取っ払った宮本が、日本のプロ野球に新たな一歩を踏み出させたのである。
これは日本の野球史に残る出来事であった。

この理論によって日本野球は劇的に守備が向上する。
何かの条件がそろった時点で爆発的に生命が進化したように、日本野球の守備理論は飛躍的な進化の時代に突入してきたのだ。

それまで内野安打になってきた打球を余裕でアウトにすることが可能になったことで、次に変化したのは守備位置であった。
ショートはそれまでの定位置より後ろに守ることが可能になったのだ。
後に守ることはヒットを防ぐ最大の方法なのである。
内野をゴロで抜かれなければ何割かのヒットが防げるからだ。

そして、宮本の理論を応用しセカンドの守備理論も大きく変化した。
それを具現化したのが広島の菊池である。
二遊間のゴロの捕球位置をライトの前進守備位置近くまで後退させ、セカンドゴロを間一髪でアウトにすることで大幅に一二塁間を破るヒットを減少させてしまったのだ。

現在、プロ野球では外野と内野の境目の芝生を後退させる動きが出てきている。
天然芝や人工芝と土の境目で打球を処理する確率が増えたのだ。
それまで外野だと思っていた場所が内野だという認識になってきている。

プロ野球から遅れること数年。
2010年あたりから高校野球でもアウトにすることを最優先とした守備理論が定着してきた。
身体の横で片手でボールをさばくのは今や当たり前の時代となった。
二遊間の守備位置が深くなり、ポテンヒットは二遊間が捕球できるために減少した。
セカンドはショート並みに肩が要求されるようになった。
テレビで甲子園を見ていてもよくわかるが、二遊間が芝生と土の境目に守っていたりする。

それに対抗するようにバッティングは外野の頭を超えることを重きに置くようになってきた。
内野ゴロがセーフにならない時代になったのだ。

少年野球でこのような守備理論を取り入れているチームに出会ったことは無い。
少年野球限定のポジショニングでアウトにする方法を追求しているチームは多い。
しかし、少年野球でしか通用しない理論を指導するという考え方は私には無い。

大きく変わる日本の野球。
この変化に常にアンテナを張り吸収し続け、それを子どもたちに指導していくことが我々指導者の役割であり、TKドラゴンズの役割であると私は思っている。